夏の幻想/一ノ瀬凛
鮮血を求め飛び交う蚊のように
清涼を求め木陰を探し歩く
まさに熱望が如く
まさに渇望が如く
太陽の光が照りつける
雲たちはそれを避けようと
入道雲を形成するのだ
太陽は神化される
しかし夏の太陽は殺人者なのだ
そうであるならば
堂々と僕を貫くあの光はナイフなのだ
どんな形であれ太陽は夏の殺人者
僕はその犠牲者のうちの一人なのだ
半狂乱で旋回する蜜蜂のように
原色をチラつかせ水を欲す向日葵のように
鮮血を求め飛び交う蚊のように
誰もが本能をむき出しに
何かを求めようとする
すると蝉は追い討ちをかけるがごとく鳴き出す
ただそのために存在するが故の短命さ
木陰の木の幹に寄り掛かり目を閉じれば
夏に殺された僕の死体が横たわる
一体何が故の僕の短命さ
ナイフで抉られた目は盲目で
急激に焼けた淋しい心はケシ炭だ
しかし目を開ければそこは先と同じ場所
ただ蚊に刺された腕だけがやけに痒いのだ
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