海辺の理由/二瀬
1.
すき
きらい
どちらでもない
ひとひらの
花びらを海辺にすてに行く
指先が君を呼びかけていて、長袖を捲ることが
できない
もう知ってるんだ
この先で
海辺の声は聞こえない
家から持ってきた貝殻は
夢を見ていて
私に音を配達するという
義務を忘れてしまった
私は
私に耳を澄まして
貝殻と同じ
空っぽの空砲を仰いでいた
砂浜の夕焼けは、打ち上げ花火
ほむらの瞳を伏せた時
確かな沈黙
あの海辺は
郵便受けだと思うんだよ
これから最後の
君の声を届けにいくから
私は
落ちていく火群と、口を閉じ忘れた
貝殻
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