妊婦のロボ子さん/モリマサ公
 

平積みされた本はまだ新しい匂いがしていて
あたしたちは軽く目を閉じた
ロボ子というのはあたしのことです
隣に立っている男性が平積みの本を
二三冊下からひっこぬいて持っていく
ロボ子というのはあたしのことです
臨月の腹をおさえると
ぽこと手のひらのあとが浮き出てくるような気がして
なでるとほんとうにそれはちいさな手のひらの形
なんだろうこの得体の知れない不安感
ぼろぼろとこぼれていく幸福感
充足感を
ロボ子というのはあたしのことです
平積みの本を手に取る人に言って回りたいような
誇らしさ
今月になって出版社を辞めた
人生で初めての忙しくない日々を送っている
後十
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