知ってるほうがよかったんじゃないのか?/ブライアン
 
光に閉じ込められた生活が、並んで歩く足音に消える。
思い出したように振り返ると、手が、男の手に触れた。
生まれたのは間違いじゃなかった、と泣きながら繰り返すテレビの声に、同情したのかもしれなかった。
過ぎ去った男の手の甲を見つめたまま、動こうとしない。
たとえば、そこに信号機があれば、不思議に思う人はいなかっただろう。
そこにあったのは、大手コンビニエンスストアの光だけだった。
コンビニエンスストアから、ビニール袋を手に持った男女二人組が出てくる。
二人は首をかしげた。
首都高の上で温室効果ガスが歌う声が聞こえる。
知らないほうがよかったんじゃないか、と思う。
思おうとしているのか。
知らないほうがよかったことなど、今まで一度だってありはしなかった。
空へ飛び出したのは、鳩だった。
夜を通り過ぎる自転車が100メートル先の交差点に止まっていた。
暑い夏の夜は、鳩の羽を湿らせた。
夏だった。
湿った風が肌に触れる。
思い出す事柄は、みな、言葉になる前に溶け出すのだった。

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