「砂の記憶」/ベンジャミン
 
どうしょうもなく渇いてしまえば
身軽になるものだというように
からから笑いながら波打ち際の
空き缶の口元を叩く
浜辺の砂

  ※

昨日までわたくしは海の中におりました
かつては地殻の内側で赤々としておりました
勢い良く地表に飛び出したあとは
しばらく大きな塊の一部でしたが
どうにもすり減ってしまい気づけば一人
どこかしらの隙間に入り込んで
その他もろもろとともに何かを埋めていたのですが
いつの間にかその殻もすり減ってしまって
ふいと風にひろわれてからは
川原と川と川原と川を渡り歩いて
海へ流れ着いたのです
それが今では

  ※

これ以上小さくなれない身体を
空き缶にぶつけて微かな声を上げている
おまえはもう何者でもないただの砂粒
抱えきれぬ記憶は海へ返したのだ
どこへなりとも飛んでゆけ
雨に濡れおちたなら
そこがおまえの居場所となろう

  ※

眠る前
ときどきあの波音を思い出す

きっとそれが
本当の始まりなんだ
戻る   Point(11)