落ちた後/光冨郁也
地に伏していた。身体の自由が効かない。目を開けると、そばに灰色の蛾の死骸が見えた。風でうすい翅がゆらめいている。翅の鱗粉がかすかに光る。蛾の数本の細い脚が、宙をつかみ損ねていた。顔をずらし視線を先に置くと、草がまばらに生える茶色の地に取り残されているのがわかる。手で乾いた土をかいてみる。指先の砂と土。
日が暮れはじめ、濃さをます闇に蛾が見えなくなる。自分の放りだされた腕、手、指も見えなくなる。暗がりのなかでわたしは呼吸をしている。石が当たるので、身体を反らす。風が周囲で、湿った音を立てている。枯れ草が互いに触れ合い、傷をつくる。胸が痛い。眼鏡のレンズを通して、暗い空を見つめる。
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