「ただいま」/小原あき
 
車に轢かれた「ただいま」があった
この持ち主はきっと
今頃帰る家がわからなくて
公園のベンチに体育座りしているのだろう


蒸し暑いこの季節になると
「ただいま」がそこいらで車に轢かれている
うつ伏せに大の字で
何回も轢かれたものは
紙切れのように少しの風で飛んでいける
飛び跳ねることをする彼らは
だけど、最後には飛んでしまうんだと思った


網戸を掃除しようとしたら
干からびた「ただいま」がくっついていた
少し驚いて
だけど、すぐにそれを手に取った
ティッシュなんて使わなかった
一目見ただけでわかったから
それはしばらく帰ってこない
夫の「ただいま」
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