苦い夏の日/銀猫
 

真っ白い日向を
ひとひらの
アオスジアゲハが舞う
それは飛ぶ、というより
風に弄ばれ抗うようで
わたしの傍らを掠めたとき
小さく悲鳴が聞こえた

真夏を彩るカンナの朱や
豆の葉の濃いみどりに
交わることも無く
淡く、みずいろを放ち
やがてだれも知らぬ場所で
眠るのだろう


  蝶の眠る、ところ
  柔らかな草と
  光る露に満ちた、
  永遠の朝の静か

  わたしの目覚める、ところ
  汗ばんだ額で
  夢と現の境界線に迷い
  喧騒の前触れに慄く
  細波の立つシーツの上


夏を生き
苦い水を飲み干して
繰り返すいのちの日々

悲鳴は誰に届くこともなく
いつか風になる



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