ひとつなぎ凪ぐ夏/紺野 夏槻
波の匂いがする。
まぼろしはわたしをさらうことはしない。
やさしさという風が、角のコンビニエンスストアに入っていった。思わず後を追う。ああ、ここにはいつも、誰かがいる。自動ドアが開くと、やさしさと夏がひといきに押しかけてきた。見えない足で列をなすそれらは、レジで細かく切り分けられる。そうして客のビニール袋に一つずつ収まると、それぞれの形でまた自動ドアをくぐっていく。私には何も買うものがなかった。
横断歩道の白黒が眩しい。今日から夏休みだ。きっとひとりで、贅沢に時をもてあますのだろう。私はそんな生き方を選択した。あの「ひとが、私の選べなかった生き方をしている。その背中を蹴飛ばしたい。私の影なのだろう、それは。
街の匂いがする。
そらはわたしを、のみこむことはしない。
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