山の手紙/yo-yo
 
きょう手紙が届いた
とおい山のホテルの便せんと封筒
差出人はぼく
自分から発ち自分へ帰ってゆく旅人の
孤独な手紙だ

恵那山トンネルという
中央自動車道の長いトンネルを抜けた
恵那山の語源は胞衣(えな)だという
母の胎内で卵のように包まれていたことを思った
ひとは生まれる前に
長い闇をもがき生きていたのだ

胞衣を脱ぎすてると光の目くらまし
ぼくは赤子になって
とつぜん知らない土地に放り出される
それは山と呼ばれ川と呼ばれるのだろう
山は空に向かって膨らんだ乳房
山襞には白い乳が流れている
ぼくは赤子だから
ただ青いものを吸いこみ白いものを飲みこむ
赤い花
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