高原の夏の夜/岡村明子
 
背中に
冷えた地球の大きさを感じながら
夜空にときおり描かれるひっかき傷を眺めている

ひどい振動がして
一台の車が頭上を通り過ぎたが
その一瞬に
私の視界を遮ったヘッドライトと
一晩中私に降り注ぐ星の光が
同じ速度であるとは信じがたい

森は空より暗く私の眼前にあり
森と名づけられている以上の無数のものを包み込んで
そこに佇み
何もせず
ただ照らされている
そのことを思うことすら
無意味であるというほどの 確かさで

私の背中が地球と同じ温度になっても
私にマントルが流れることはないだろう
私はただ自然と同化したいと願うだけで
永遠に満たされることのない思いを朝日に託すしかないのだ


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