ゆれる/楢山孝介
私の住んでいる部屋の窓にはガラスがなく
ところどころ破れたカーテンと蜘蛛の巣が同居している
それらをすり抜けて虫が来る
上半身裸で寝ている私を食いに来る
寝返りで死んでしまう間抜けな奴もいる
対象が曖昧な罵声をあげながら目を覚ます
ぼろぼろのマットレスに染み込んだ汗を吸いに来る虫は
黒く光る羽根を持っている
痒くて痛い体に水を浴びせ
二十年物の扇風機に向けて股を開く
扇風機の羽根越しに見るテレビ画面は
天気予報でさえ、古い映画のように映し出している
本日の予想最高気温は四十三度
死なないように生きていきましょう
死んだ目をしたお天気キャスターが言う
虫よけのために煙草でも吸いたかったが
そんなものはもううちにはない
昨晩外から投げこまれたライターには
わずかながらガスが残っていた
蜘蛛の巣に火をつける
虫を少しは防いでくれているのに
巣は逃げないから、という理由で燃やす
蛮行をたしなめるように風が吹き
蜘蛛の巣とライターの火とカーテンが混じり合う
炎の向こう側で
昨日よりも暑い今日が揺れ始める
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