父/二瀬
 
れられるよりほかに
仕方のなかった沢山のあなた 
たちを綴って

記憶の先が
私の目の前で死んでいく


コーヒーのほろ苦さから


暗い煙突の上から

誰かの紅い頬の隙間から


白い
白く透明な小さな最後の吐息が

木の箱の中で、塊となって主張している


そのときやっと
あなたが誰だったのか
今までで
いちばんじょうずに、わかった気がして

お父さん、

最近は、雨がやまないばかりなのです


私のせいでは、ありませんよ

私はいつだって 

あなたのためなんかに 
泣いたりなど、しなかった


川が海へ返るように

最後に自然さをわたしたちに返して


こどもの私はもう、ありふれすぎていて
死ななければならないのだから

だから
「お父さん」と

嘘のように呟きながら

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