生乾き/楢山孝介
 

まだ
夜は
寒いので
海岸に落ちていた生乾きのコートを
拾って羽織った

シャツも落ちていたが濡れていて
靴も落ちていたがサイズが合わず
人間の男も落ちていたが
触るとぬらぬらして
息があったので
拾わなかった

他には
遠い国から流れ着いた未開封の缶詰や
打ち上げられたタツノオトシゴノオトシゴ
いやらしい形をした船首像を拾い
コートのポケットに入れた

悲鳴が聞こえたので振り向くと
私よりずっと見境のない連中が
落ちていた男を担ぎ上げ
シャツやら靴やらも拾い上げ
運んでいくところだった

生乾きのコートのポケットを
漂着物で満たすと
人一人背負うような重みになった
まだ
夜は
寒くて
重みを放り出す気にはなれなかった

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