想い出横丁 /服部 剛
 
細い路地に入ると 
食事処がぎっしり並び 
人々の賑わいから 
昭和の匂いがぷうんと漂う 
頭上の鉄柵に 
取り付けられた蛍光灯は 
細い路地を仄かに照らす 
油汚れの壁に描かれた弁財天が 
ひっそりと琵琶を奏でる 
「バカはうまいよ」 
「おふくろの味、盛りつけます」 
軒先の看板に立ち止まる田舎出の学生 
焼き鳥を齧りながら額に汗の滲むサラリーマン 
隣の客の杯に酒を注ぐ水商売の女
昔、早朝に新聞を配ってから
専門学校に通っていた
同じクラスのあいつと 
就職が決まったり 
恋に破れた夜は 
決まってこの店で 
熱燗を片手に祝杯を
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