もうひとつの耳のすませ方/ふたば
ともかくその日いちにちは
みんなで音を出す日という決まりだ
なんでもいい
大きな音を出しまくる
金だらいをラッパでたたく
スリッパでエレキギターをはじく
屋上からドラムを放り投げ
クラクションの鍵盤を押しっぱなし
電球もガラスの破裂も
気にしなくていい
どうせひとりでに割れちゃうんだ
服には鈴やタンバリンを縫いつけ
教会の鐘をサイレンにして
SHUREかBOSE製の
マイク、メガホン、拡声器をありったけ
ひとり残さず行き渡らせろ
電線を全部ストリングスに取り替えろ
ブラスバンドをロケットにのせろ
花火の打ち上げを途切れさせるな
ずっと手を叩いていてもいい
同時に足を踏み鳴らしててもいいんだ
そうして
音音音で一杯に脹らんだ街の
いくらでも溢れかえってしまうなか
その余韻の残っているうちに、みんなで
音のなんにもしない方へ向けて
耳を澄ましてみるのだ
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