夜の花屋/暗闇れもん
 
困った人と思いながらも私は夜風に体を乗せた。

「薔薇がない」

彼はあの馬車部屋で私の帰りを待っているのだろうか。

苦労して夜風に乗っているのに夜の花屋はまだまだ遠い。

月明かりに照らされ現れて、朝には霞む夜の花屋。

「好き嫌いしている場合ではありません」

「今日は嵐か?」

「いいえ、月の綺麗な夜です」

細く白い腕に促され、私は馬車の窓際に立った。
体が揺れることはない。

かび臭い黒い上着。
甘い痛み。
甘い雫。

「後悔なんて似合わないですよ」

「薔薇がない」

「ええ、売り切れていました」

もうすぐ夜が明ける。
買ったばかりの薔薇をちぎっては、風に乗せた。


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