おとなに。/Utakata
切が鳴り始めると
きみは切符さえ持たない両手をきつくきつく握り締める
もう
泣きたくないから
なんの変哲もなく電車はやってくる そしてきみは
せいいっぱい なんでもないふりをして
それにのりこむ
最後に
きみはひとことだけ ごめんね という。
それは僕にか
それともきみが捨てようとする世界に向けてなのか
それともきみが行こうとする場所に向けてなのか
無人駅にひとりだけ僕が残る
君を乗せた車両のひかりが見えなくなると
僕は小さな音をたててホームから線路に飛び降りる。
後ろから何も来ないことを確かめると
電車が去っていった方向へとゆっくりと歩き始める。
泣きながら歩き続けたって。
どこにも行けないことは わかっているのに。
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