遺影/朝原 凪人
 
赤に黄に僕の空を染め上げた 
染め上げていたその欠片 
欠片はアスファルトの上、ガサリ 
ガサリと老いた祖父の手 
手の皮膚の色と手触り 
手触りすらもやがて朽ちて 
朽ちて残る細い細い骨 
骨、骨、骨 
骨、あるいは毛細血管 
血管を切り刻む飛礫は雨 
雨、雨、雨 
雨、は朔風に攫われて 
攫われた足元には空虚 
空虚を前に跪く我は 
我は見た。黒い手の影 
影は若々しい肉感を露わに 
露わになった未練と執念 
執念がアスファルトの凹凸にひしと 
ひし、としがみつきこびりついたその姿 
その姿の美醜を我は断じることができず 
創だらけの指先から流れている 
流れているはずの血の色を思う 
もう忘れ去られた色 
色の失った季節に遺された、遠い日の赤
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