桜桃/小川 葉
僕はものごころついたときから
自分によく似た大人を見てきました
それはずっと
父親だと思ってましたが
本当は自分の息子かもしれないと
最近では思うようになっているのでした
息子はまだ三歳で
一緒に暮らしてますが
ときどき間違えて
父さん
そう呼びそうになるたびに
言葉を飲みます
子供より親が大事と思いたい
と思いたい
僕は三十九歳になりました
人のようにツルに生え
人のように繋がりあい
はち切れそうに
切なく染まった桜桃を
食べては種をはき
食べては種をはき
そうして虚勢のように呟く言葉を
飲みこんで今日も生きてます
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