【うめぼし】/檻野楴人
それはきみがくれたものだ
かなしみというものだ
俺はそれをどうするでもなく
ただおもむろにポケットにしまう
まぶたを忘れるほど
夕陽が落ちていた
拾うのも勿体なくて
ただ、ぼんやりと眺めていた
くたびれた鞄と体をせおって
気づいたら自分のことばかりになって
町の端っこまで歩いていたら
世界には自分だけだって気がする
苦悩なんて名前の
大仰なそれはどこにもなくて
ちっぽけな自分の背中が
抜け殻のようにさまよっていた
おぼえたてのかなしみに
長くのばしたライターの火をつけて
溜め息ばかり長くなる口を
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