「 ふれてください 」 /服部 剛
 
べろんべろんに酔っ払い 
狸のつらでゆれる地面を千鳥足 
今夜の塒(ねぐら)のねっとかふぇの 
個室のドアを開く 
うつむいたスタンドの頭に 
貼られたシールに書かれた
「 ふれてください 」 
千鳥足のこの俺に 
「ふれてください」
なんてゆってくれる奴ぁ
お前のほかに誰もおらんぞ 
おいこらスタンド  
そんなにお前も寂しいか 
「 ふれてください 」に 
この手をのせると 
狭い個室は ぽっ と
仄かに明るくなった 
ほんとうは 
老若男女御多分漏れず 
口にはしない( ふれてください )を 
人知れず呟いてる密かな声
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