無花果の花/亜樹
うにその様子を見たおかみさんは、不意に庭のほうを向いた。大きな、役立たずの木に、その視線が向けられる。
「ああ。今年もなったんだねぇ。また随分とたくさん」
「ええ。本当に」
「食べないのかい」
「食べられないんです。あれ。少しも甘かない。せめて花でも咲けば、心の潤いにでもなるんでしょうが」
「おや?知らないのかい。あれが花だよ」
「え?」
「花がそのまま実なんだ。あの木は。無骨で少々グロテスクな姿形だがね。咲かせるときには、もう生っているんだよ。もちろん綺麗じゃないがね」
それはそれで幸せだろうよ、とおかみさんは帰っていった。
残された妹島は、渡された肉じゃがをひとまず台所に置くと、再び礼拝室の戸をあけた。
涼やかな風が吹く。無花果の実が、その風でまたニ三落ちた。
妹島は庭に出た。その無花果の中から、なるべく綺麗なのを選ぶと、そっとマリア像の前に供える。
妹島の母親は多分、マリア像よりも無花果に似ていた。
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