無花果の花/亜樹
 
 妹島が住んでいる家の庭には、大きな無花果の木が在った。
 その木には無数の実がなっていたが、家主はそれを採りはしない。
 まずいのだ。あれは。
 ちっとも甘くなく、食感もどこかざらついて、そのくせ小さい。
 鳥ですら、見向きもしない有様だった。
 だから毎年、妹島はその実が生るのも落ちるのも朽ちるのも、それに任せていた。
 花も咲かせず、実だけを作り、そのまま朽ちてゆく。
 淋しい女のような木だと、常々妹島は思っている。


 妹島がこの家に住むようになって、随分と久しい。
 けれどもこの家は別に彼の持ち家と言うわけではなかった。
 彼は、単なる下宿人に過ぎない。
 彼
[次のページ]
戻る   Point(1)