宛名の無い手紙 /服部 剛
 
図書館で資格の本の頁を閉じ 
色彩を失った日々を嘆いた 
長い手紙を書き終え 
疲れた腕をしろい机にのせる 
(机の下に潜むかみさま)が 
ぼくの重さを支えていた 
ふいに後ろを向いたら 
仄かな日の射す灰色の廊下から 
トイレを終えた車椅子のおじさんが近づいて 
片方だけ軽く手をあげ 
傍らを通り過ぎた 
(片麻痺のひとに潜むかみさま)から
沈んだ顔をしたぼくへのあいさつだった 
不思議と気持の変わったぼくは 
宛名の無い手紙を手に 
立ち上がり 階段を下り
左右に開いた自動ドアの外へ 
歩み出す 
川沿いの散歩道の途中で 
ずっと待っていたように 
独り立つ 
あの赤いポストのほうへ 
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