水風/朝原 凪人
 
海だった 
湿度百十五パーセント 
水蒸気の飽和したの六月の風 
ビルに囲まれた灰色の世界に 
潮騒と潮の匂いを届ける 
風が吹き抜けるこの街は 
海だった 
気付いた君 
ぬめついたアスファルトから 
すっ、と足を離し 
ふわ。りと身体を宙に投げる 
明日の天気を占う様に 
靴を蹴り上げた反作用 
街路樹の合間をすり抜ける 
地球を後ろに蹴りつけて 
毎日歩き続けていた君は 
いつもより心軽やかに 
纏わりつく服を脱ぎ捨てて 
水の風 
からだに纏う 
羽を持たない君が宙を泳ぎ 
ヒレを持たない君が海で羽ばたく 
海底から見る 
水面のあをは 
海の青と穹の蒼 
どちらの色だろうかと思考しながら 
君は穹という名の水面を見上げる 
六月の水の風の匂いに包まれながら
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