ラジカセ/小川 葉
 
一人暮しする時に
父が大切なラジカセをくれた
買った当時
十万円近い価値のあったラジカセは
時代とともに価値をうしない
それでもあの日ラジカセを
父の部屋ではじめて見た時は 
銀色に輝く眩しさと
その巨大さに
僕は父と目を輝かせたものだった
ラジカセは
引越しを重ねるうちに邪魔になり
いつのまにか僕の周囲から消え
いつのまにかラジカセのない暮らしに 
慣れていった
帰省したある日 
そういえば銀色のラジカセ
まだ使ってるのか 
と聞かれて 
僕は当然のように
捨ててしまった 
と、言った時の父の顔 
当たり前のように
いつもそこにあって
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