暗闇に吊るされた、心臓。 /服部 剛
 
 それは激痛すらも無く 
 いつのまにか緩やかな時のまにまに 
 我胸から抉(えぐ)り取られた 
 空虚の闇 
誰もいない深夜の映画館の 
スクリーンに映し出される 
遠い夢の浜辺 
押し寄せる潮騒のほとりを 
揺らめき沈む夕陽へ走る 
懐かしい面影達 
あの日僕から背を向けて 
砂浜に連なる足跡だけを残し 
夢の浜辺を遠のいていった 
君の背中よ
 
 時のまにまに空いていた 
 我胸の暗闇に 
 張り巡らされた蜘蛛の巣から 
 一本の糸が解けた先に 
 吊るされている、赤い心臓。  
 青白い顔で 
 薄っぺらな希望を乞う 
 もう一人の僕の問いに 
 暗闇に吊るされた心臓は 
 白い口を開いて笑い 
 心音だけが 
 いつまでも繰り返し 
 闇に響いていた 
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