犬神の作り方/がらんどう
の現し身は憎悪の器としては脆弱に過ぎる。ゆえに犬神は大地そのものを、世界そのものを、憎悪の器とするのである。だからこそ、術者は犬に姿を見られてはならないのである。救いを求めることをもはや止め、ただ憎しみにより純化された犬の目はそれを見ている。だが、その目の先にあるのは、自身を死に追いやった術者ではない。自身に何ら救いの手を伸ばさない、この世界そのものである。
たとえば、妻と子を惨殺された男はその加害者を憎むであろう。では、最初から妻も子もいない私は誰を憎めばよいのであろうか。それは最初から失われていたのだ。世界が最初から失われていたとしたら、私にとって存在しないものである世界を存在しないものとしてあるがままに扱うことにどのような問題があるというのだろうか。私の手元には白木の小箱があるというのに。
戻る 編 削 Point(3)