昼、ネギを持った男が/いとう
うとしている
君がそのネギをどこで手に入れたのか
それは推測の域を出ない事柄のひとつ
ホームの柱にもたれかかりうずくまり
薄汚れた生のネギの汚れを
薄汚れた君の手の甲で落とす
つもりでさらに薄汚れていくそのネギを
少しずつ
一口ずつ
君は口に含んでゆく
君の目にうっすらと涙が見えるのは
揮発する催涙性刺激物によるものか
それともまったく別の理由によるものか
それも推測の域を出ない事柄のひとつ
長い時間をかけて
君はネギを食べ終わる
駅員を含むすべての他人はすでに君への興味を失い
自分たちの職務及び生活の維持に翻弄されている
(彼らは基本的に実害がなければたいていの事象を受け入れる)
君はゆっくりと立ち上がり
食べられない部分をきちんと燃えるゴミ用のゴミ箱に捨て
そして
ホームがさらに混雑し始める夕暮れ
奇声を発しながら電車へ飛び乗る君へ
彼らは声をかけることができない
声をかける自由を奪われていることに気づかない
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