半そで/小川 葉
 
半そでの季節になると
肌の匂いが懐かしく
やがてそれは
真夏の音に掻き消されて
懐かしさはまるで
現実とは言えないほど
曖昧な記憶になる

半そでの肌を
すっと
初夏の風が通るたびに
わたしたちは
生きていた頃の思い出を
静かに語りはじめる

それらの物語は
古い白黒写真に写ってる
永遠の夏の一日の断片に似ている
土の中の蝉の幼虫の言葉のようでもある

肌は白く美しく
焼かれることのない
図書館の椅子に
腰掛けたまま居眠りしてる

君の生体反応が
半そでからあらわになった部分から
波の音がはみだして
潮の匂いがしてる
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