河原の記憶/小川 葉
 


 もう結婚していて、小さな子供がいても不思議ではないような、女の人が、河原にやってきました。男物のサンダルと、子供用の小さなサンダル、そして薪を一束持って、河原にやって来ました。女の人は、河原に座りこみました。ふたつのサンダルを、きれいに揃えて置きました。薪の束も、サンダルの手前に置きました。両足を揃えて膝を折り曲げ、その膝を両腕でかかえて小さく座りました。そうして女の人は、川の流れを見つめはじめました。なにかの儀式のようでした。
 私は、そのようすを見て、あることを思いました。おそらく女の人は、結婚していて、子供がいたのですが、この川で、夫と子供が水難事故にあい、死んでしまったのです。
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