時の子/佳代子
 
上げるイルカをみて、時の子は大変なことに気づきました。ぼくはあのこの思い人には会えないんだ。あのこの恋する月には会えないんだ。過ぎていかない限り。
 ―ねえ、月ってどんな子?
 ―とても綺麗なこよ。
野辺の娘たちは口を揃え、そう答えました。
 ―ぼくは?
時の子は娘たちに訊いてみました。
 ―そうね、昨日までのあなたは懐かしい暖かさ、明日のあなたはワクワクする喜びがあるわね。でも、今日のあなたは見えないの。顔がないわ。
時の子はとても重い悲しみが海を消していくのを感じました。イルカの切なさだけを残して。切なさが飽和状態になったとき、時の子は月に逢いたいと思いました。今日の月はイルカにあげよう。でも、明日の月にぼくは逢える。時の子は初めて野辺の娘たちの言葉がわかりました。
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