三丁目の奥手さん/小川 葉
三丁目を知らずに
僕らは生まれた
三丁目のことだけは
なにも知らずに
僕らは僕らのふりをして
住所を持たずにどこかで生きて
どこかへ歩いていくのだろう
恋かもしれなかった
僕らはやはり僕らでしかなく
三丁目の標識だけは
識別できたのに
そんな住所はどこにもなかった
奥手だと言われて
それでも恋をしていた
白黒写真の中に
三歳の僕
そして知らない姉さんが
はじめて会ったような恥じらいで
その時を留めている
だから僕は今更
それは初恋と誰かに
告げるには時は遅すぎた
三丁目で
今日も夕日は語らずに
暮れていく
写真の二人も白黒のまま
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