薄明/きりえしふみ
(たった) ひとつの恋が終わった
幻のような希望(ゆめ)だった
輪郭のない花のように 靄のかかった
触れても 最早響く筈もない……時代錯誤の旋律のような それは
調律師の手元離れて久しい 幻影だった
言葉として発せられる前に喉元で……絞め殺されていた
文字として浮き出る前の……筆者の躊躇いで止まった
形にならない手付かずの寓話だった
風が止んでいる……光が 躊躇している
寝乱れた髪 青ざめた頬に 朝の
冷ややかな唇を押し付ける その たった一瞬を
私が余りに穏やかな寝息を立てて夢の中へ
身を寄せるから……浸るから
紅い甘い 薔薇色の花びらの褥で安らうから
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