詩人の墓/亜樹
私は文房具屋に行った。可愛らしくコンパクトな、――けれどもけして簡単には消費できない分厚さの、ノートを一冊買って帰って、汚い文字で殴り書いた。
いくつも。
いくつも。
ぐるぐるぐるぐる、ペン先のボールが鳴る音が聞こえるような気がした。
その日から私は詩を書いている。
時に短歌を。
たまには俳句も。
鬱状態は良くはならなかったが、悪くもならなかった。
ぐるぐるぐるぐる、ペン先のボールが鳴っている。
夜中餌付いていた声が、手首の赤い線が、壁を殴る音が、それに変わった。
鬱状態は続いている。
息を吸うように
自傷行為のように
生きていくことのように
私は詩を書いている。
それはやっぱり詩人ではないのだろう。
そのなりそこないのようなものだ。
生粋の詩人が一人しかいない国で、私はそんな風に自分を誤魔化しながら、詩のようなものを書いているのである。
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