車の聖堂 /服部 剛
 
アクセル踏みすぎちゃったり  
ブレーキ掛けすぎちゃったり  
右に左にハンドルを  
きりすぎちゃったり  
( 運転は「その人」があらわれます )   
誰もいない助手席から聞こえる、  
あの日の教官の声。  
( 運転は「禅の境地」です )  
速度計の針は 四〇km をぴたり指す  
校内コースを走ったあの頃は  
肩を強張らせてハンドルを握った  
スピードも  
今はすろーもーしょんに見える  
助手席には今も  
姿の無い透明な教官が  
ドアに頬杖つきながら  
不器用な日々の走行を  
見守っている  
まだ若葉マークは外せなくとも  
我が愛車のしーんとした室内は  
今や自分だけの聖堂です  
あぁ遥か前方の曇天に  
親しくも片翼をつないで翔んでいる  
二羽の鳶の黒影が 
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