蜘蛛の糸 /服部 剛
 
仕事帰りで我が家の門を開き 
玄関まで5mの並木を通る 
「 うわっぷ! 」 
木と木の間のくらやみに 
はりめぐらされた蜘蛛の巣に 
ぼくの顔が引っかかる 
(そそくさと、木葉(このは)の茂みに逃げる、蜘蛛の影) 
翌朝「いってきます」 
洗面台で顔を洗う祖母に告げ 
昨日をすっかり忘れたように 
やるきまんまんで玄関を開く 
門までの5mの並木  
朝日に透けた巣の中心に 
昨日をすっかり忘れたように 
居坐っている蜘蛛が一匹
「 おぬし・・・ 」 
糸の端を指でつまんで 
片方の木葉の茂みに 
巣をたたむ 
「 蜘蛛さん、ごめん 」 
ひとこと呟き 
荷物を背負(しょ)って、門を出る 
見えない糸を 
ぼくも尻から出しながら 
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