「五月」/Utakata
 






若草色に綴じこめた瞼のうえから
わずかに身をのりだして夜明けを待つ
もう 冷え切った息を止める必要もない
もう
五月だから

去年の金魚
紅い軌跡を残したまま闇に溶ける
それを掴まえるはずの左手が
角を曲がる音の中にほどけてゆく

さよならの言葉を
ひとつひとつ丁寧に封筒に詰めては
紙飛行機の形にして空に飛ばす
そんな仕事
地面に落ちたそれを拾ったら
開いて読んでくれればいい
読んでくれなくたって
べつに構わない

そんなだから
涙の流れる必要もない
流れたって
べつに

記憶
投げ込んだそばから拡がっていったのを
待ち
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