三歩/龍二
俄かに浮かぶ朧月を掴もうと三歩前に出る。連なる街灯の明かりの明かりを反射する路側帯と横断歩道。肩に降り積もる湿度と温さを含んだ外気。霧の様に光の中をうごめく蜻蛉の群れ。
小さな虫の声と、靴音と、風が草を撫でる音を聞いた。分厚い雲を縫う様に歪んでいく月光を、三歩先で待ち受けて、泥だらけの指先で内ポケットにしまった。「1、2の3」で誰にも彼にも未来が大挙してやって来る。「1、2の3」で三歩前の俺達は、別れ道に立って、すれ違ったと思ったら、もう見えなくなっている。後姿を見せる事も無く、別れる悲しみも、未来への喜びを、口元に滲ませる事も無く、何も見えなくなる。
内ポケットは空っぽのまま、坂道を全速力で駆け下りた。
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