音の回廊/渡 ひろこ
雑居ビルの中にある小さなライブハウス
彼女が鍵盤に指先を下ろした瞬間
スタインウェイは真っ直ぐに彼女を見つめた
たたみかけるような熱い音の重なり
スタインウェイと彼女の間には
透き間がない
プロとしての匂いを即座に感じ取り
ピッタリと吸いつくように
全身で彼女に応えてる
みるみるうちに二人のつなぎ目から
螺旋状の音の回廊があらわれた
ステージからせまいホールいっぱいに
繰り出して
深い赤や瑠璃色に変化して
しなるように揺らめいている
私は巨大なコイルとなった音の回廊を歩いていた
彼女も背景をもふくんだエ
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