音の回廊/渡 ひろこ
 
雑居ビルの中にある小さなライブハウス
彼女が鍵盤に指先を下ろした瞬間
スタインウェイは真っ直ぐに彼女を見つめた


たたみかけるような熱い音の重なり
スタインウェイと彼女の間には
透き間がない
プロとしての匂いを即座に感じ取り
ピッタリと吸いつくように
全身で彼女に応えてる


みるみるうちに二人のつなぎ目から
螺旋状の音の回廊があらわれた


ステージからせまいホールいっぱいに
繰り出して
深い赤や瑠璃色に変化して
しなるように揺らめいている





私は巨大なコイルとなった音の回廊を歩いていた





彼女も背景をもふくんだエ
[次のページ]
戻る   Point(22)