体温/高杉芹香
 
29才の冬
やっとふたりきりで会えた4つ年下の彼は
路駐させた車を降りて
ひょぃっとガードレールを飛び越えた。

会うなり
『ライター持ってる?。失くしちゃったの、さっき。』
そう言って
私の顔を覗き込んだ。

覗き込むその顔があんまりにも近すぎて綺麗だった。

「あるよ」と答えてうつむいた私を『可愛い』って言って笑うから
「可愛くなんかない」としかめっ面で口を尖らせてみたりした。


何ヶ月も友達だったけど
ふたりきりで会ったのはそのときが最初で
私はそのときのその店のその席が今でも好きだ。


冬の道を彼と歩いているとほんの少し足もとがふらついて

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