雫/高杉芹香
 
つ落ちた

私は 
言いたかったことばをそこで言わなかった


あの雫が合図だったのかもしれないのに



ねぇ
抱きしめられたときのあなたの匂いが好きだった


雨が降ると雨の匂いがする


夕方からの雨に濡れて
ほんの少し
思い出しただけだよ
つまずいてなんかない


あなたのあのときのシャツの匂いと
雨の匂いと
軒先から落ちる雫と


あなたとの秘めた恋と
この東京での夜




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