曖昧な情景の中で/千月 話子
 
広がる上空を囲むように
その日は 曇り空だったのですね

ゆるく波打つ 水面は
際に立つ 私達の少し後ろで
薄暗く 揺れていました

かと言って 私の心が
景色と 同調していた訳ではなく
少し肌寒い キリ とした風で
ぼやけた 灰色の輪郭を
切り取っていくように
私の気持ちを 凛とさせたのは
すぐそばに あなたが居たからです

愛でるように ゆるく微笑む眼差しと
じゃれるように駆け寄った 満面の喜び
慈しむ腕 溢れる体
それらが 優しく絡み合ったので
あまりにも 優しく重なり合ったので
ほんの数分の 交わりでさえ
思い出せば スプーンから
ゆるり落ちる 
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