夏の池/水町綜助
 

そのまま胸に耳を当てて
久しぶりに心臓の音を聞いて
動かしているのと訊ねると
そんなつもりじゃないと答えるが
どうやら鼓動している
なぜだかそうして生きている

  *

 教会の白壁を
 手のひらで触っている
 すべてをさしあたり割り出す夏の太陽は
 象形文字のように静止して
 肌を撫でる
 その瞬間の手の影が動いて
 そこは白壁ではなく黒い
 長く伸び
 小枝を折る音が聞こえた

  *

 夏の池は水面下に騒ぎを押し隠して
 静まり返っている
 耳を緑色の水鏡につけて
静かな午前中の体は
拍動を隠して
一線上に連ねていく
もう何度この音を
繰り返した
 様々な淀みを沈殿して
 浚(さら)ってみたい
 どれだけの
 生物が動き
 どれだけの亡骸を
抱きしめているか

  *

そしてどれだけ
澄んでいくのか

  *

 夏の池は円く
 断続的に波紋を広げている

 僕は散歩道を歩き始め
 土を踏む音を聞きながら
 真夏へと向かって行く


戻る   Point(8)