異物/伊那 果
 
 誰かと一体として生きることを望むのは
 愚にもつかない愚
 皮膚一枚を隔てた男(ひと)の中には
 わたしへの異物が渦巻いている
 
 さて思い切ってその内臓のなかに腕をつっこんで
 あなたのその異物をこの手で支配してしまおう
 ダラダラ、ダラダラ、
 こぼれ落ちていく異物にわたしは床をなめてはいずり回る

 そうしてわたしの中にまた一つ
 小さな腫瘍が生まれる
 どろどろ、どろどろ
 そのわたしこそがあなたののどをふさぐ異物ではないか

 それでもわたしは溶けあうことを望み続ける
 一心不乱に望み続ける
 この時代に語られる「幸せ」というイマージュは
 そんな悟りの境地のことではなく
 異物を交わし合いながら温度を保つことなのですよ
 そう告げたのは誰の言葉だったか
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