お伽噺の林檎/水島芳野
紅い林檎の入った籠を
受け取った日から始まった
幸せになりまた忘れてく
ありきたりな祈りだけれど
真紅の林檎に潜んだ毒を
誰も見つけはできないのなら
目を伏せそっとひれ伏しなさい。
頭(こうべ)を垂れて手をとって
恭しくとも愛の無い
あの温度で触れるがいい
蛇の言葉に耳を貸し
紅い果実に触れるなら
私のことはお忘れなさい
真は誰しも知らないのなら
どうしてあなたを引き止められる
私は口を噤みましょう
目を伏せそっとひれ伏しなさい。
頭(こうべ)を垂れて手をとられ
恭しくとも愛の無い
あの温度に救われなさい
褪せた欠片に目を配り
唇だけでも微笑みなさい
壊れた破片に気づきつつ
折れた翼で飛びなさい。
戻る 編 削 Point(2)