人音(ひとおと)/楢山孝介
人がいた
音を立てていた
枯れて崩れる葉を踏み
枝を折って歩いていた
いらつく声を
口から発していた
連中は音を隠さない
俺を呼んでもいいのだろう
喰われても構わないのだろう
身を潜めている俺の横を
人は無防備に
犬も連れず
銃も持たず
音を立てながら
歌いながら
震えながら
一人で歩いてゆく
死にたいのか
喰われたいのか
甘えたいのか
隠れることをやめて
人の前に飛び出した
人は安堵したように
静かになり
さあ喰ってくれとばかりに
寝転がりやがった
気に入らなかった
喰いたくはなかった
しかし腹は減っていた
喰った
うまかった
そのことにいらつき、吠えた
また人の近付いてくる音が
聞こえてきた
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