親鸞の鍬  /服部 剛
 
昨日の僕はくたびれて 
仕事の後の休憩室で熟睡し 
帰りのバスを待つ
怠け者の朝 
ベンチに腰掛け 
一冊の本を開く 
昔々、見知らぬ地へ流された 
無一文の身で額に汗して畑を耕す 
親鸞さんの姿を描いた伝記に 
目を細める 
日照りの路面に 
つらなる蟻の一列が 
今日の糧を求めて 
行進していった 
陽炎の揺れる交差点を 
ヘルメットを被る男達が 
皆で脇に一つの梯子を抱え 
横切っていった 
今日の休日を過ごしたら 
明日は親鸞さんを
胸に納め 
畑の土に立つ親鸞さんが 
鍬を振り下ろす一瞬が 
いのりそのものであるように 
お年寄りを介護する僕が  
さしのべるこの手を 
いのりそのものとしたい 
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