「かげふみ」/ベンジャミン
 

うららかな夕焼けが
つくりだす陰影


「せんせい かげふみしよう」

授業が終わった生徒が
煙草に火をつけようとする
僕の手をとめる

足元から伸びた大きな影と
向かい合う小さな影

「先生 忙しいんだけど」

言い訳をするよりはやく
もうその一戦は始まってしまうから
僕はわざと追いつかれて
踏まれたところを押さえて降参する

(今日は頭だ)

「あいたたたっ」

頭を抱えてしゃがみこむ僕に
申し訳なさそうに
近づいてくる影
見上げると
本当に心配そうにしている

「大丈夫だよ」

そう言うと
安心したような表情に
ほの赤い夕焼けが映えている

大きな影と小さな影を並ばせて
横断歩道の信号が青になるのを待つ

「せんせい さようなら」

遠ざかってゆく小さな影から
僕は今日も

やさしさを教えてもらう
       
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